地域支援事業とは何?┃厚生労働省よりわかりやすく解説

地域支援事業とは 戦後政策

地域支援事業は恐らく一般人に最も知られていないのに、ケアマネジャー試験では最も出題されるジャンルの一つと思われます。それだけケアマネジャーにとっては切っても切り離せない重要な事業だということです。

ただ、地域支援事業は複数の事業が組み合わさった複雑な事業で覚えるのも大変。そもそも何のためにあるのか、初めて知った人は戸惑ってしまうかもしれません。

そんな地域支援事業を厚労省よりわかりやすく解説します!

地域支援事業とは

地域支援事業とは、介護保険法で定められている国や地方自治体が行う事業の一つです。主に、要介護や要支援には及ばないけれど、何らかの介護サービスを必要としている人に介護サービスを提供できる、しやすくするための事業です。

(地域支援事業)
第115条の45 市町村は、被保険者の要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止及び地域における自立した日常生活の支援のための施策を総合的かつ一体的に行うため、厚生労働省令で定める基準に従って、地域支援事業として、次に掲げる事業(以下「介護予防・日常生活支援総合事業」という。)を行うものとする。

介護保険法(平成9年法律第123号)第115条の45

介護保険制度は「要介護」「要支援」向けの介護サービスを規定する法律です。しかし、なかには介護が必要だけど、要支援の基準には当てはまらない「要介護/要支援予備軍」のような方々もいます。

地域支援事業はそうした要介護/要支援予備軍の人向けの介護サービスを規定するために作られました。

介護保険制度の中の地域支援事業の位置づけ

市町村が介護予防に取り組むための事業

地域支援事業は、介護保険の保険者である市町村が、高齢者の介護予防に取り組むための事業の総称です。2006年に制度が始まり2015年に大幅に拡充され、今では介護保険法の中でも大きなウェイトを占める重要な事業の一つになっています。

「介護予防」といったら、「介護予防訪問看護」など、要支援向け支援じゃないの?

そう。「要支援」という「要介護」には至らない軽度の高齢者向けの介護サービスとして「介護予防○○」といった介護サービスが存在します。

実は、地域支援事業の対象者は要支援の人も含みます。しかし、それだけでなく、もっと軽度の人(基本チェックリスト該当者)や、その「普通の高齢者」向けのサービスも含むなど、幅広い対象者を想定した事業なのです。

「地域包括ケアシステム」を推し進める主要事業

地域支援事業は、国が進める「地域包括ケアシステム」を具体的に実現するために作った事業です。

地域包括ケアシステムは、多くの高齢者が施設などに引っ越しをしないで、住み慣れている自分の家で死ぬまで暮らせるように体制整備をする事業。
高齢化で介護サービスが不足する中で国が最重要に進めている事業です。

地域包括ケアシステムについて詳しくは以下の記事でも書きました。

「地域包括ケアシステム」は国や介護関係の人々が浮かべる「概念」ですが、それを具体にするための実際上の事業として地域支援事業があります。

地域支援事業は何のため?

そんな地域支援事業、2015年には大幅に拡充されたこともあり、何かと注目されていますが、「結局何がしたいの?」という肝心なところがわからない人もいるのではないでしょうか。

結局のところ、地域支援事業は地域包括ケアシステムの具体的事業なので、その目的は地域包括ケアシステムと同じです。

地域支援事業が重視される背景などを知り「何のために行われているか」を理解することでグッと全体像が見えてくると思います。

高齢者が自宅で暮らせるようになる

「介護」というと、今でも老人ホームなど「施設」を想像する人が多いです。実際、現在の介護サービスでは施設の位置づけが大きく、また、施設にいる高齢者…つまりはすでに介護が必要になった方への介護に重点が置かれています。

しかし、施設は高齢者にとっては周辺環境を大きく変え、大きな負担をかけることになります。
地域支援事業は、高齢者が最後まで愛着ある自宅で暮らせるように事業を整えることを目指しています。

介護度の重度化を防ぐ

また、高齢者が怪我や病気になると、それが原因で寝たきりなどより重度な状態になってしまうリスクは若者と比べて非常に高いです。

そこで、軽度の状態で集中的に支援を行うことで重度化を防ぐ枠組みがあれば、高齢者には大きなメリットがあるわけです。つまり、地域支援事業の狙いはここにあります。

まとめると次の二つに狙いを整理できます。

地域支援事業の二つの狙い
  • 高齢者を施設ではなく、在宅にとどめる
  • 高齢者の介護度の悪化を食い止める

これらは、高齢者にとっては「住み慣れた家にい続けられる」メリットにつながります。やっぱり自分の家にいられるって安心するし、とてもいいですよね。
また、「寝たきりなどにならず最期まで元気に幸せに暮らせる(いわゆる「ピンピンコロリ」)」というもう一つのメリットにつながります。

ちなみに…

今だって居宅サービスがあるじゃない?
違いがよくわからないんだけど?


と思う方も多いはず。確かに居宅サービスの存在が地域支援事業の存在理由をよくわからなくしている面があります。

大き違いは2つ。居宅サービスはすでに要介護度の高い高齢者を対象としているのに対し、地域支援事業は要支援や一般の高齢者など比較的介護度の低い高齢者を対象にしていること。もう一つは予防に重点が置かれていることでしょう。

本音は「逼迫する介護保険財政」のため

地域支援事業がここまで大々的に推し進められる理由には行政的な本音も見え隠れしています。その本音とは、介護の担い手不足と、厳しい介護保険財政です。

施設介護ではなく、在宅で…というのは、施設で24時間面倒を見るよりも在宅の方がカネも人手もかからないという行政的なメリットに通じます。
また、軽度のときにお金を使って重度化を食い止めることは結果的にカネがかからない、という側面もあります。

地域支援事業の行政の二つの本音
  • 施設ではなく、在宅の方がカネも人手もかからない
  • 重度化予防が成功すれば結果的にカネがかからない

「高齢化で社会保障費が増え介護保険財政がひっ迫する中でも十分な介護サービスを提供する」というようなオブラートに包んだいい方でこの状況が説明されますが、制度設計を考える官僚たちの中では日本の財政はそれ以上にシビアに思われています。

そのため、国は今後も「要介護」向けのサービスよりも、地域支援事業などの「予防系」「居宅系」のサービス・事業に力を入れていくものと思われます。

いずれにしても、あからさまに介護サービスの報酬を減らさるよりはマシで、適切に運用されれば高齢者にも大きなメリットのある事業ですので、決まったからには真剣に取り組む必要のある事業です。

地域支援事業の中身

では、実際の地域支援事業の中身をみていきましょう。とはいえ、本ページでは、地域支援事業のそもそもの狙いなどを重視しているため、詳細な中身の検討は「さわり」程度に行います。詳しくは別の機会に作成します。

3つの事業で構成される複雑な事業

地域支援事業は、3つの事業で構成されています。3つの事業はさらに複数の事業で構成されているので広くて複雑な事業です。ですので、まずはこの大きな3つの事業を押さえておくと後の暗記がしやすくなります。

地域支援事業の3つの事業
  • 介護予防・日常生活支援総合事業(いわゆる「総合事業」)
  • 包括的支援事業
  • 任意事業

ほとんど実施主体ごとに分かれています。

例えば民間やボランティアの介護事業者が参画できる事業が「総合事業」で、地域包括支援センターが行うのが「包括的支援事業」、市町村が行うのが「任意事業」です(厳密には違いますが「だいたい」という感じで覚えておくと○です)

総合事業は軽度者向けの介護サービス

介護予防・日常生活支援総合事業(いわゆる「総合事業」)は、いってみれば、要介護者向けに行われる「居宅サービス」を基本チェックリスト該当者などより軽度な人にも行う事業です。
「総合事業」の名の通り、その下に2つの事業がついていて、しかもその下にさらに9つの事業がぶら下がっています。

「総合事業」にぶら下がる9つの事業(覚えられません…)
  • 介護予防・生活支援サービス事業
    • 第1号訪問事業
    • 第1号通所事業
    • 第1号生活支援事業
    • 第1号介護予防支援事業
  • 一般介護予防事業
    • 介護予防把握事業
    • 介護予防普及啓発事業
    • 地域介護予防活動支援事業
    • 一般介護予防事業評価事業
    • 地域リハビリテーション活動支援事業

ほとんどが要介護者向けのサービスに似ています。ただ、要介護者向けの介護サービスと比べ、基準などが緩く、簡素になっている場合がほとんどです。

なかでも、第一号訪問事業と第一号通所事業は2014年までの「介護予防訪問介護/通所介護」でしたが、費用削減と重度化予防の観点から総合事業に移行しています。

ま、まずはここでは、「それだけたくさんの事業を束ねているのか」と感じてもらうだけで十分です。

包括的支援事業は地域包括支援センターが主役

包括的支援事業は地域包括ケアシステムの「近所づきあい的なつながり」を強化する…中核的な役割を担う事業です。その拠点として「地域包括支援センター」という機関を各所に配置し、いわゆる地域の介護力UPなどの事業を行います。包括的支援事業は以下のように4つの事業・業務がぶら下がっています。

「包括的支援事業」にぶら下がる4つの事業・業務
  • 第1号介護予防支援事業
  • 総合相談支援業務
  • 権利擁護業務
  • 包括的・継続的ケアマネジメント支援業務

包括的支援事業のポイントは地域包括支援センターを創設させた、ということと、介護予防や地域福祉に関するあらゆる運営を地域包括支援センターが行うという2点で、いずれも「包括が主役の事業」ということです。

任意事業は保険者(市町村等)がメインの事業

任意事業は名前の通り「任意(やってもやらなくても自由)」の事業です。上記2つの事業は主体が民間や社会福祉法人、そして地域包括支援センターだったのですが、任意事業は介護保険制度の保険者、つまり市町村が運営主体であることです。

「任意事業」にぶら下がる3つの事業
  • 介護給付費等費用適正化事業
  • 家族介護支援事業
  • その他の事業

「その他の事業」ざっくりしすぎ…

いずれにしても、地域包括ケアシステムをさらに推進するために必要だとして位置づけられた事業です。なので、市町村側の運営的事業が多く、あまり利用者が登場しません。普通に利用者を相手にする側のケアマネなどがこの事業にしっくりこないのはそういう理由からだと思います。

任意事業では、地域の特性(ケアマネの力量の把握度、雪の降る地域/暑い地域などの気候・風土、高齢化の進む地域/若い人の多い地域などの人口構造など)で取るべき対処が異なっており、事業の内容を一律に国が決めると逆に無理や無駄が起こることがあります。

そのために任意として実施の自由や裁量がある程度市町村に任されています。

今後も重視され続ける事業

地域支援事業は20の事業で構成される複雑な事業ですので、その詳細を一つひとつすぐに知ることはできません。

しかし、「介護予防」に重点が置かれた「地域主体の事業」という点、その理由が高齢者へのメリットだけでなく、介護費削減という行政的なメリットにも通じることを理解し、今後も注目・拡充され続けるであろうことを押さえておくと全体が見やすくなります。

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