ICF(国際生活機能分類)は介護福祉の世界で「素晴らしいもの」としてもてはやされています。しかし、しっかりと説明できる人は少なく、誤って認識されていることも多くあります。
例えば「利用者の悪い面は書いてはいけない」「便利なアセスメントシート」などです。
一方で、ICFは使いこなせば試験対策だけでなく、自らの介護業務にも十分に生かせる考え方です。
そんなICFについて、わかりやすく解説します。
ICF(国際生活機能分類)とは
ICFとは、国際生活機能分類の英訳の略です。WHOという世界機関でみんなで決めたので頭に「国際(International)」と付きます。
下の図はとても有名ですね。しかしこれだけだと意味がわかりませんので、詳しく解説します。
利用者の情報を整理するための「基準」
ICFは利用者のもつ膨大な情報を整理するためのものです。
利用者の情報と言うと、例えば「日本人」「福岡出身」「男性」「●●病」「認知度は○○」「家族の状況は…」「趣味はギター」「まじめな性格」「女好き」…などなど。
こうした情報は集めればきりがありません。どの情報をどう活用すればいいのかその基準があったら便利ですよね。ICFは特に医療・介護などの支援をする際の利用者情報を整理するための「基準」になります。
医療・介護の支援向けの情報分類
例えば、恋愛を成功させるという目的においては、必要な情報の基準は「相手の人となりがわかる情報」「自分との共通点」などになります。だから、趣味や性格、出身の情報などは大事ですが、通院の状況や家族との関係性などはあまり必要ないですよね。
逆に、介護や医療の支援をすすめるためには、通院の情報や介護力をはかるための家族の情報などはとても大事です。つまりは、心身機能や健康状態などの医療情報の他に、普段の家事をどの程度できているのか、安定的に支援を受けられるほどの経済力があるかなどの生活情報です。
この「医療や介護の支援のために必要な情報」について、「何の情報が必要か」そして、「それらがどのような関係性にあるのかを表した(分類した)もの」がICFです。
ICF(国際生活機能分類)の構成要素
国際生活機能「分類」というくらいですので、ICFは、利用者の生活における情報を大きく6つに分けています。これを「ICFの構成要素」といいます。
ICFの構成要素は6つあり、それぞれが関係しあっています。
具体的には6つの関係性で見る
ICFは「健康状態」「心身機能・構造」「活動」「参加」「環境因子」「個人因子」の6つの関係性で見ます。
「健康状態」「心身機能・身体構造」は医療的な情報が多く、「活動」「参加」は生活上の情報です。
「環境因子」と「個人因子」は元からそこにあった情報なので変えるのが難しい情報です。
それぞれは関係しあっている
ICFは介護・医療の支援を進めるにいたって、情報を6つに分類したこともわかりやすい点ですが、それらが密接に関係しあっている点にも着目しましょう。
こうすると、上記の図になるわけです。
例えば「活動」に分類される項目は「参加」と密接に関係しあっています。「デイサービスでレクリエーションに積極的に参加している」なら、レクで手を動かせるという「活動」と「デイサービスでレクに参加する」という「参加」に分類されますが、これらは単独では存在しえません。
活動をもっと増やしたくても本人が嫌がるのでできない…という場合は個人因子(本人の価値観)が活動に影響を及ぼしていると考えられますし、でもデイサービスを位置づけたら楽しんでいくようになった…のなら、「参加」が個人因子に影響を与えたことになります。
ICFの活用例
ICFを使って利用者の情報を整理してみると例えば次のようになります。
ある利用者は生活不活発病になっていて、もっと手足を動かす必要がある…つまり、「活動」が足りていない、それが転倒のリスクになっている。 そこで、デイサービスをサービスに位置づけて「参加」の機会を増やし、活動を増やそう。でも、1年前に心臓の手術をしていて今も激しい運動はできない(健康状態)。本人は明るい性格でデイサービス参加に前向き(個人因子)だが、家族の体制が整っていない(環境因子)。
上記の例、もし医師から「運動するようにしてくださいね」で終わっていればこの人は運動はせず、生活不活発病はより悪化するでしょう。
このように何が原因でどうすればその人の生活課題を解決していけるのか、考えやすくしてくれるのがICFです。
あるある!ICF(国際生活機能分類)の誤解
ICFについては抽象的であるがゆえに、「あるある」の誤解があります。
「悪い面は書いてはいけない」の誤解
「ICFは、利用者の良い面を見るものだから、悪い面は書いてはいけない」と言っている人を本当によく見かけますが、これは大きな誤解です。
これまで見てきた通り、ICFは利用者生活情報を介護や医療に活かしやすいように分類・整理するものです。その中には当然疾患の情報や何ができないのか、何の機能が落ちてきているのかといった情報も入ります。
これらがなければ、適切な利用者像の把握はできません。
このような誤解が生じているのは、多くのテキストでICFの前身にあたるICIDH(国際障害分類)を引き合いに出してICFを説明しているからです。
ICIDHは、ICFと違い、障害の状況を詳しく分類できるのみで「活動」「参加」「個人因子」など、生活に関する情報の分類はありません。障害の状況を分類するので必然的に「何がどこまでできないのか」を中心に見ていくことになります。
ICIDHに限らず、医療では基本、何かができなくなった、悪化した場合にかかることが普通です。
だからこそ「良い部分」「出来る部分」にも着目するICFは斬新で、それまでのICIDHなどを知る人にとってはそれを比べることでICFがとてもわかりやすくなるわけです。
ただICFは、その人の良い部分、できる部分も記載する欄があるというだけで、決して悪い面を書いてはいけないという意味ではありません。むしろその人の全人的な理解をするためには「何ができるのか」だけでなく「何ができないのか」を正確に把握する必要があります。
「便利なアセスメントシートである」の誤解
ICFは有名な関連図があるためか、「便利なアセスメントシートである」と思っている人もいます。しかし、この見方も正しくありません。
もちろん、ICFを「シート」として活用し、各情報を書き込むことで利用者の情報が立体的に見えてくることはあります。しかし、ICFはあくまでも情報の分類をしやすくするためのものであり、これに書き込んだからと言って何か具体的な支援方法が浮かぶというものではありません。
あくまでもICFは「人間の情報を医療や介護の視点に照らし合わせるとこんな感じになっているよ」という意味でしかありません。
ICFに関するおすすめの書籍
ICF関連の書籍はいろいろ出されています。ただ、どれも難しく、あまりわかりやすくて有名な書籍に乏しい印象です。それでもここで述べたことはICFのさわり…本当にうわべの部分だけですので、よりICFを深めたいという方には次の2つの書籍をご紹介します。
ICFの定義から専門的に学びたい人はこれ
ICFはWHOで2001年に採択され、その時の学術的な位置づけや意味などを専門的に解説した本が出ました。それが『国際生活機能分類(ICF)―国際障害分類改定版 – 』です。
日本のICFのもととなる要素がすべて載っているため、他のICFに関する書籍はすべてこの本からの引用がないことがないといっても過言ではありません。
ただ、学術的な定義づけに紙面が割かれているため、より専門的に学びたい方向けです。
ICFを介護実務に活用したいならこれ
ICFによって利用者の問題を把握し、それをどう解決していくのかという実践に沿った内容が載っているのが、『「よくする介護」を実践するためのICFの理解と活用』です。
『利用者の状態を「よくする介護」が実践』と、書籍の紹介文にありますが、それは著者のオリジナリティが強く出ているみたいです。それよりも、ICFという学術に則った無味乾燥なものを実際の介護実務にどう生かすのかの道筋を描いてくれています。
レビューなどを見ると、古い本であるのと、著者本人が医師のため実際の介護実務とは少し違うのではという批判も一部でありますが、支援の具体はどうしても事業所によって変わってきてしまうので、それよりはICFをどう生かしていけばよいのかという点に着目していただければ、十分に参考になる書籍だと思います。
ちなみに著者の大川弥生氏は上記にICFの赤い本の編集にもかかわったICFの第一人者です。