介護では必ず目にする「地域包括ケアシステム」。
でも一体何のことかわかりづらくないですか?
ここでは、地域包括ケアシステムについて厚生労働省の説明よりもわかりやすく解説します。
わかりやすさを優先し、報酬加算など細かい点は省くため、実務に直接役立たせようとする人には物足りないかもしれません。
でも、初学者の方、イメージがわかなくて困っている人が読むとその後の理解が進むと思います!
地域包括ケアシステムとは
施設ではなく自宅で暮らせるようにするシステムのこと
ざっくりいうと、地域包括ケアシステムは介護が必要になった高齢者を施設にいれず在宅で暮らせるようにするシステムのことです。
え? 今でも訪問介護などの居宅サービスがあるじゃないか、と思われたかもしれません。
しかし、詳しい話は後程述べますが、介護の担い手不足や財源不足により、増える高齢者に対し、介護の公的サービスを万全に揃えるのはどうやら無理らしい、だから、在宅で効率的に介護しよう…という目論見で作られたのが地域包括ケアシステムになります。
「昔の近所づきあい復活制度」のこと
地域包括ケアシステム…「包括」「システム」という言葉が使われていて、なんだか重厚な響きがしますが、これは言ってみれば、「昔の近所づきあいを復活させること」と「近所の力と介護サービスを使って、高齢者を施設に入れない」というしくみをかっこよく行政用語でいっただけのものです。
昔の近所づきあいというと、
「お隣の田中さん、認知症だって~」
えぇ~、大変!今度様子見に行ってあげよう!
というような、昭和のゆるいご近所づきあいのようなもの。これを現代の都市でも人工的に行政が取り入れようということ。
「ご近所パワー」が介護の担い手に
都会のマンションを想像してみると、お隣さんの名前すら知らないということもありますよね。一人暮らし高齢者が死んで数か月後に発見されるという「孤独死」などもこれが原因です。
ところで、昔の田舎はご近所同士のつながりが強く、息子さんが結婚しただの、お母さんが倒れただの、家単位の出来事が町内中に知れ渡るようになっていました。この状態を人工的に再現できれば「ご近所パワー」が介護の担い手になるわけです。
具体的には、近所の人が徘徊している知り合いの認知症者に気軽に声を掛けられたり、スーパーの買い出しの荷物を持ってあげたり…いわば「見守り支援」とか「付き添い」と言われる「生活支援」の介護サービスをご近所パワーで提供するわけです。
医療・介護サービスをそこに組み合わせる
近所の人同士で支え合い、結果として生活支援サービスが提供されるのが「ご近所パワー」ですが、訪問診療など、毎週必ず必要になる専門的支援は無理ですね。
そこで、そうした専門的かつ定期的に提供が必要なサービスについては医療・介護の居宅系サービスが担いましょう、とするのが「地域包括ケアシステム」です。
これまでのながーい説明を愚かにも一気に図にしようとすると、以下のような「よく見る地域包括ケアシステムの図」になります。
真ん中にいる、介護が必要になった人が、周辺の老人クラブやNPO、そして訪問・通所系の介護サービス、医療サービスなど『住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される』システムであることがわかります…かね?ごちゃごちゃしてて初見では何のことかわからないと思います。
なぜ地域包括ケアシステムが生まれたのか
高齢化と介護の担い手不足
日本は高齢化率が約30%と世界一高齢者の割合が高い国です。一方で少子化が進み、介護を担える人の数が少ない現状です。
そのために2000年に介護保険制度をつくり、介護施設をたくさん作っていたわけですが、それでも増えていく要介護高齢者と減っていく介護職に歯止めがきかない現状です。
そこで、地域に存在するNPOやボランティア、そして近隣の人々の「インフォーマル(非公式)」な力も使って、介護が必要な高齢者でも自宅で継続的に暮らしていけるようにするために地域包括ケアシステムが考えられました。
財源不足
財源の不足も地域包括ケアが求められる背景にあります。日本政府は、支出が税収だけでは賄えず、国債という負債を発行しています。その発行残高は2021年で対GDP費約260%と巨額に上っています。これは、過去の歴史にみても、他の国々と比べても突出して高い水準です。
高齢者の数は世界と比べてもかなり多く、年金だけで毎年60兆円ほどが支給されています。一方で消費税収は21兆円前後。国会議員にかかるすべての経費を合わせても1000億円ほどですので、「国会議員の給料を下げれば解決する」なんて単純な話ではないわけです。
地域包括ケアシステムの導入によって、見守りサービスなどの専門的知識がそこまで必要とされない介護サービスが近隣住民によってボランティアや低額な料金で行われることにより、膨れ上がる介護費用を抑えたいというのが国の本音でしょう
「地域包括ケアシステム法」は存在しない
地域包括ケアシステムが捉えどころのないどこかフワフワしたものに感じるのは、地域包括ケアシステム法というような名前を冠した法律が存在しないからというのも理由の一つです。
地域包括ケアシステムは、いわば厚生労働省が掲げた「今後の日本の介護のスローガン」というような位置づけ。これを完成させるために、関連する法令や通知を整備するというイメージです。
具体的にどのような法律で運用されているかは別の回をご用意するのでその際にご覧ください。
地域包括ケアシステムはどのように運用されているか
地域に点在する「社会資源」を活用する
「昔の近所づきあい復活」と言っても、住民一人ひとりの意識をいきなり変えることはできません。
そうではなく、まずは訪問介護などの介護サービス事業者が「居宅がダメなら施設でいいや」ではなく、できる限り利用者が在宅生活できるような支援方法を選択するようにする(具体的には政府が在宅生活を継続できるような事業者の支援に加算をつける)ことが主になります。
また、普段よく特定の家の人と接する配送業者に、異常があった場合の連絡先を伝えるとか、その地域にあるNPOやボランティアの人たちと接点をもって、支援のお願いをするといったことから始めます。
こうしたフォーマル資源の在宅シフトと、インフォーマルの資源をフル活用することで地域包括ケアシステムは運用されています。
中核的人材は介護支援専門員(ケアマネジャー)
地域包括ケアシステムの中で中核的な役割を担うのはこれを読んでいるであろうケアマネジャーの皆さんです。
ケアマネジャーは実務研修や更新研修などでさんざ「社会資源の活用」を言われていると思いますが、それはこのためにあります。
ケアマネの活動地域の社会資源を知り尽くし、サービスに位置づける。先ほど言った介護サービスとは本来かかわりの薄い配送業者の方へのコミュニケーションなどはケアマネが主に担うのです。
中核的機関は地域包括支援センター
こうしたことを陣頭指揮を執って行う機関は地域包括支援センターです。
これまで見てきた通り、地域包括ケアシステムはいってみれば「金をかけずに介護する制度」ですので、新たに何かの機関をどんどん作ることはありません。ただ、これまでなかった概念を浸透させ陣頭指揮を執る機関は必要です。そのために作られたのが地域包括支援センターです。
中学校区に必ず1つ、というかなり身近なエリアに、介護が必要になった人、なりそうな人などの総合相談施設として創設されました。
それ以外にも地域包括ケアシステムのために整備された介護保険法の運用なども行っています。
地域シフト・公的資金支出縮小シフトの流れをつかむ
まとめると、地域包括ケアシステムは以下のようになります。
以上の4点を抑えておくと、あらゆる福祉ニュースがわかりやすくなってくると思います。